海沿いの国道は風が強くて
晴れていたのに
砂浜には出られなくて
逃げ込むように
チケットを買った

空いた平日の水族館

小さな子を連れたおかあさんと
幼稚園の帽子をかぶった
ひよこの集団のような
手を繋ぎあったこどもの列が通 る

君はその度目を細めて
「おんなじだね」と
無邪気に握ったあたしの手に
力をこめる

ことりのさえずるような集団が
ゆっくりと待っていた可愛いバスに吸い込まれて
あたりはまた
強い風と君と晴れた空

こまかな熱帯魚や
マンタやどう猛な鮫や
たゆたうだけの光るくらげや
あたしたちを囲む
海に住むものたちの魂

黙ってみていた君が

「水に住むものの館が水族館、なら?
鳥だけを集めた空族館ってないのかな」

空族、翼あるものたち

あったらいいな、だけど、翼のあるものは、
どこまでも自由に飛べなきゃ、生きてる意味がないでしょう
ちいさな魚達のように、
狭い世界ではきっと息が詰まってしまう

「そうか。じゃ、空族館は作れないね」

君があたしを見下ろして言った

翼あるものが、あたしの隣で優し気に微笑む
今は少し疲れて、ここで休んでいるだけ
またそのうち飛びたくなるでしょう
君は 自由であることが素敵なのよ

「決めつけないでよ」君は笑うけど

「ここがいいからここにいるんだもの、
僕、無意味に誰かにつき合うような、ヒマはないんだよ」

うんうん、そうだよね

水族館を出て、風のベンチで君がもたれてくる
君の背中の翼が我侭に飛びたがっても
それが「空族館」であっても気が付かないくらい
君をつつむように 縛れたらいい

気まぐれに逃げようとしてもあたしのなか

まるで孫悟空がお釈迦様のテノヒラにいるように
静かに君を飼いならしたい

 

 

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