買ったばかりの赤いリンゴを
                 噛み砕く 顎
                 ゆっくりと 丹念に動いては 君に取り込まれていく
                 その香り

                 何処かのリンゴ園のリンゴの木に実った
                 それが摘み取られて 店先に並べられ
                 さっき それを見つけた君が 店のひとに
                 あれを と言った
                 袋に詰め込まれた赤い輝きに
                 魅せられた 君の本能
                 偶然の巡りあわせが 簡潔に終わっていく

                 公園の 陽の当たるベンチで君が征服する
                 その 唇を舐めてから
                 健康な歯で ふたたびかぶりついた

                 今朝は剃っていない 顎の無精ひげ
                 美しく 甘い 赤い実を
                 君は 噛みしめる

                 見ていたわたしに
               

                      ・・・うまいよ、ほら食ってみなよ。

                 と 差し出した

                 君に支配された リンゴのよろこびが
                 苦しいくらい 甘く香りたつ

 

                

                                            「リンゴ」

 

 

 

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